悪意の遺棄と別居の関係

悪意

悪意の遺棄とは

夫(妻)が一方的に家を出て、別居状態となった場合、その背景にはさまざまな理由が考えられます。円満な話し合いに基づく別居や、DV(ドメスティック・バイオレンス)などの正当な理由がある場合もありますが、多くのケースでは浮気や不倫が関係していることが多いです。このような状況は単なる別居にとどまらず、法律用語で「悪意の遺棄」と呼ばれるものとなります。

「悪意の遺棄」という法律用語は、夫婦が共同生活を送る義務に反し、相手を不当に放置し、ほったらかしにする状況を指します。法律における「悪意」という言葉は、本来「ある事実について知っている」という意味合いがありますが、ここでの「悪意の遺棄」においては、一般的な意味で「相手を害する目的で行う」というニュアンスが強調されます。そして、「遺棄」という言葉は、遺棄罪などで使われるように、「捨てて置き去りにする」という意味があります。

具体的には、悪意の遺棄は以下のような行動を含みます:

  1. 勝手に家を出ていく:

    配偶者が一方的に家を出ていく行為は、法的には「悪意の遺棄」に該当することがあります。これは、単に配偶者が家を離れるという行動が悪意の遺棄とされるわけではありませんが、その背景や状況によっては、法律的に問題視される可能性が高いです。特に、事前に協議や相談をせずに、一方的に家を離れる場合には、共同生活を維持するための義務を放棄し、配偶者を不当に放置する行為として扱われることがあります。

    具体的には、夫婦が共に暮らすという基本的な義務を無視して、何の前触れもなく突然家を出ていく行為は、法律上の問題を引き起こすことがあるのです。このような行為は、配偶者との共同生活を守る義務を果たさず、無責任な行動として捉えられることが多いです。配偶者が突然家を離れると、残された側は生活基盤が崩れる可能性があり、精神的、物理的な苦痛を受けることになります。このため、一方的な別居は、相手に対して不当な負担をかけるとされ、法律的に不正な行為と見なされることがあるのです。

    また、このような行為は、配偶者が協議や相談を行わずに単独で決定することで、相手に対して十分な配慮を欠いた行動とされます。夫婦間での適切なコミュニケーションと協力が欠如している場合、配偶者の権利や義務を尊重することができず、共同生活の基本的な原則が守られていないとされます。これにより、法的には「悪意の遺棄」として問題視されることがあります。

    さらに、配偶者が事前に協議や相談なしに家を出ていく場合、その行為が不当であるとされるだけでなく、相手方に対して経済的な負担を強いることにもなり得ます。たとえば、家計の維持や生活費の分担など、共同生活に伴う諸費用の負担を一方的に残された配偶者に押し付ける形になるため、法的に問題が生じる可能性があります。

    このような状況では、悪意の遺棄として法的措置を取ることができる場合があります。たとえば、配偶者が不当に家を離れたことにより、残された配偶者が精神的な苦痛や経済的な困難を被った場合には、その配偶者に対して慰謝料の請求や生活費の支払いを求めることができます。また、悪意の遺棄が離婚理由としても取り扱われることがあり、この場合には離婚の手続きや条件に影響を与えることもあります。

    結論として、配偶者が一方的に家を出ていくことは、悪意の遺棄と見なされる場合があり、その行為が法律上の問題を引き起こす可能性があります。事前に協議や相談を行わずに家を離れることは、共同生活の義務を放棄し、配偶者を不当に放置する行為として法的に評価されることがあるため、注意が必要です。

  2. 配偶者を家から追い出す:配偶者を家から追い出す行為は、悪意の遺棄として法的に問題となることがあります。特に、感情的な理由や不倫などの個人的な事情から、配偶者を一方的に家から追い出す場合には、共同生活を維持する義務を無視し、配偶者を不当に放置する行為として見なされることがあります。

    具体的には、夫婦が共同生活を送る中で、一方の配偶者が感情的な衝突や不倫などの問題から、相手を家から追い出す決定をすることがあります。このような行為は、単に感情や個人的な事情に基づくものであり、法的な手続きを経ることなく、無責任に配偶者を追い出すことになるため、悪意の遺棄として扱われる可能性があります。たとえば、配偶者が不倫を行った結果として、その配偶者を家から追い出す行為は、感情的な報復や不満の解消を目的としたものであり、共同生活の義務を守るという基本的な原則を無視することになります。

    このような状況では、配偶者が追い出されることで、住む場所や生活基盤を失い、経済的・精神的な困難を強いられることが多くなります。追い出された配偶者が新たに住居を探さなければならない場合、生活の安定性が損なわれ、経済的な負担が増すことになります。また、精神的にも大きな苦痛を感じる可能性が高く、配偶者の生活全般に対して深刻な影響を及ぼすことになります。

    このような行為が法律的に問題視される理由は、夫婦間での相互の責任と配慮が欠如しているからです。夫婦は共同生活を維持する義務があり、その義務を放棄し、一方的に配偶者を追い出すことは、基本的な法的義務や倫理的な原則に反する行為とされます。したがって、配偶者を家から追い出すことが悪意の遺棄として扱われるのは、このような行為が共同生活の義務を無視し、配偶者に対して不当な扱いをするものであるためです。

    また、配偶者を家から追い出すことで生じる経済的負担や生活の困難に対して、法律的に対処するためには、悪意の遺棄として証拠を揃えることが重要です。追い出された側が経済的なサポートや生活費の支援を求める場合には、法律的な請求が可能です。具体的には、追い出した配偶者に対して慰謝料の請求や生活費の支払いを求めることができます。さらに、悪意の遺棄を理由にして離婚を進める場合には、離婚手続きにおいて有利な条件を得ることができる可能性があります。

    結論として、一方の配偶者が家から追い出す行為は、悪意の遺棄として法的に問題となることがあります。感情的な理由や不倫の結果として、相手を家から追い出すことは、共同生活の義務を無視し、配偶者を不当に放置する行為と見なされるため、法的措置を取ることができる場合があります。このような行為が引き起こす経済的・精神的な困難に対して、適切な法的対処が求められるのです。

  3. 生活費(婚姻費用)を渡さない、払わない:別居状態において、配偶者が生活費(婚姻費用)を渡さない、もしくは支払いを拒否する行為は、法律的に「悪意の遺棄」として問題視されることがあります。婚姻費用は、夫婦が別居している場合でも、生活のために必要な費用を支援するものであり、この支援を意図的に拒否することは、配偶者に対して不当に放置し、生活に困難を強いる行為となります。

    具体的には、婚姻費用は夫婦が共同生活を送る上での経済的な負担を分担するためのものであり、たとえ別居していても、生活基盤を維持するために支払われるべきです。このため、別居中であっても、一方の配偶者が生活費を支払わない、あるいは支払いを拒否する場合、その行為は夫婦間の共同生活の義務を果たしていないとされます。このような行為は、配偶者に対して意図的に経済的な支援を行わず、生活の安定性を損なうものであり、法的には悪意の遺棄として取り扱われることがあるのです。

    生活費の支払いを拒否することで、実際には配偶者が生活するために必要な基本的な費用が賄われなくなり、生活の質が大きく低下する可能性があります。たとえば、別居中の配偶者が家賃や光熱費、食費などの日常的な経済的支援を受けられない場合、生活に困難を来すことは明らかです。このような困難は、配偶者の健康や生活全般に対して深刻な影響を及ぼす可能性があり、その結果として精神的なストレスや身体的な負担も増すことになります。

    さらに、婚姻費用の支払いを意図的に拒否する行為は、配偶者の生活を不当に困難にし、法律的にも配偶者に対して不正な負担を強いる行為として見なされることがあります。こうした行為は、夫婦間での責任と配慮を欠いた行動であり、法的に対処されるべき問題とされています。

    実際に、生活費の支払いを拒否された配偶者は、法的な手段を講じることでこの問題に対処することができます。具体的には、家庭裁判所に対して婚姻費用の支払いを求める調停を申し立てることができ、調停が成立すれば、支払いが強制されることになります。支払いを拒否する配偶者がこの決定に従わない場合、さらに強制執行の手続きが行われることもあります。

    このように、生活費の支払いを拒否することは、別居中でも夫婦間の経済的な義務を無視し、相手に対して不当な困難をもたらす行為として、法的に問題となることがあります。配偶者がこのような状況にある場合、法的な手続きを通じて適切な支援を求めることが重要です。

このような状況では、法律的には配偶者に対して法的措置を取ることが可能です。悪意の遺棄が認められる場合、遺棄をした側に対して慰謝料の請求や、生活費の支払いを求めることができます。また、悪意の遺棄が婚姻関係の解消や離婚理由としても利用されることがあります。離婚を希望する場合、悪意の遺棄を理由にすることで、有利な条件で離婚が進められる可能性があります。

悪意の遺棄については、具体的な証拠や事実が重要となります。配偶者の行動が悪意の遺棄に該当するかどうかを判断するためには、専門の法律家に相談し、適切な証拠を収集することが求められます。弁護士や法律の専門家の助言を受けることで、自身の権利を守り、適切な法的手続きを進めることができるでしょう。

このように、悪意の遺棄とは、配偶者が共同生活の義務を放棄し、相手を不当に放置する状況を指し、その行為には法的な問題が伴うことがあります。具体的な行動としては、勝手に家を出ること、家から追い出すこと、生活費を支払わないことなどがあり、これらの行為が悪意の遺棄として扱われることがあるのです。

悪意の遺棄と別居、離婚請求

悪意の遺棄をした配偶者は有責配偶者となり、有責配偶者に対しては離婚を請求することができますが、民法770条に条文が記載されています。

(裁判上の離婚)
第770条
1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2.裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

逆に有責配偶者である場合は離婚を請求しても却下されます。

責任のある側からの離婚要求を認めることは法の正義に反するという考え方です。

しかし、現実では悪意の遺棄をしている側が離婚を要求している例が多く見かけられます。

浮気相手と一緒になりたくなった、今の配偶者とは別れたくなった、ということで一方的に別居状態にして浮気相手と一緒に生活し、配偶者には離婚を迫るという状況です。

ちなみに「婚姻関係が破綻していれば不貞行為にならない、離婚もできる、なので別居をすればよい」等の情報をネット等で見かけることがありますが、これは正確ではありません。

確かに「婚姻関係が破綻していれば離婚を認める」という判断基準・考え方が存在しますが、破綻は自分勝手に別居しただけで認められるものではなく、少なくとも「お互いに婚姻関係の継続意思がない」状況と判断される必要があります。

ですので、勝手に家を出て別居した時点ではむしろ悪意の遺棄に該当する可能性が高く、それが婚姻関係破綻と両立するのもおかしな話となってしまいます。

ネットで得た情報をそのまま自分の都合の良いように解釈してしまい、別居してすぐに浮気相手と同棲を始めてしまった人がいましたが、もちろんその後に同棲(不貞行為)の証拠を撮られることになりました。