「契約前に知っておくべきこと」:探偵事務所契約ガイド
・なぜ契約前の確認が重要なのか?
契約前の確認を怠ることで起こりうるリスク
意図しない高額請求: 料金体系が不明瞭なまま契約してしまうと、後から予想外の高額な追加料金を請求される可能性があります。例えば、「基本料金は安かったのに、後から様々な名目で追加料金を請求された」というケースは少なくありません。
ずさんな調査: 調査方法や調査範囲が明確になっていない場合、期待していたような調査が行われず、結果的に目的を達成できない可能性があります。「証拠を掴むと言われたのに、曖昧な情報しか得られなかった」というケースなどが考えられます。
情報漏洩のリスク:守秘義務に関する取り決めが不十分な場合、個人情報や調査内容が漏洩するリスクがあります。これは依頼者にとって深刻なプライバシー侵害につながる可能性があります。
契約解除時のトラブル: キャンセルポリシーが明確になっていない場合、契約を解除しようとした際に高額なキャンセル料を請求されたり、返金に応じてもらえなかったりする可能性があります。
業者との認識の齟齬: 契約内容について口頭での説明だけで済ませてしまうと、後で「言った」「言わない」の水掛け論になる可能性があります。契約内容は必ず書面で確認し、双方の認識を一致させておくことが重要です。
法的保護を受けられない: 契約内容に不備があった場合、または契約自体が法律に違反していた場合、万が一トラブルが発生しても法的保護を受けられない可能性があります。
・調査契約書の詳細
なぜ調査契約書が重要なのか?
調査契約書は、依頼者と探偵事務所の間で交わされる「約束の書面」です。口約束だけでは、後で「言った・言わない」の争いになる可能性が高く、お互いにとって不利益となります。調査契約書があることで、契約内容が明確になり、双方が安心して取引を進めることができます。具体的には、調査契約書は以下の点で重要です。
1,契約内容の明確化:調査目的、調査方法、調査期間、料金など、具体的な調査内容が明記されることで、依頼者と探偵事務所の間で認識の齟齬を防ぎます。
例:「配偶者の不貞行為の証拠収集」という目的が明確に記載されていれば、どのような行為が調査対象となるのか、どのような証拠を収集するのかが明確になります。
2.権利義務の明確化:依頼者と探偵事務所それぞれの権利と義務が明記されることで、責任の所在が明確になります。
例:探偵事務所は調査を行い、報告書を提出する義務、依頼者は調査料金を支払う義務などが明記されます。
3.トラブルの予防:万が一トラブルが発生した場合でも、契約書に基づいて解決を図ることができます。
例:追加料金が発生する場合の条件や金額が明記されていれば、料金に関するトラブルを防ぐことができます。
4.法的根拠の明確化:契約書は、裁判などの法的紛争において重要な証拠となります。
例:情報漏洩が発生した場合、契約書に守秘義務に関する条項があれば、法的責任を追及する根拠となります。
調査契約書に記載されているべき内容
1.契約当事者
依頼者の氏名、住所、連絡先
探偵事務所の名称、所在地、代表者名、連絡先、探偵業届出番号 (令和6年4月1日以降は標識に記載)
2.調査目的
どのような目的で調査を依頼するのかを具体的に記載します。(例:配偶者の不貞行為の証拠収集、行方不明者の捜索、取引先の信用調査など)
違法な目的(例:差別調査、ストーカー行為など)での調査依頼はできません。
3.調査内容
どのような方法で調査を行うのかを具体的に記載します。(例:尾行、張り込み、聞き込み、情報収集など)
調査の範囲(場所、対象者など)を明確にします。
4.調査期間
調査開始日と終了日、または調査期間の目安を記載します。
5.料金
料金体系(時間制、パック制、成功報酬制など)を明記します。
料金の内訳(人件費、車両費、機材費、報告書作成費など)を詳細に記載します。
追加料金が発生する場合の条件と金額を明記します。
支払い方法(現金、振込など)と支払い時期を明記します。
6.報告義務
調査の進捗状況をどのように報告するのか(電話、メール、書面など)、報告頻度などを明記します。
最終的な報告書の形式(書面、データなど)と内容について明記します。
7. 守秘義務
探偵事務所が負う守秘義務の内容を明記します。
個人情報の取り扱いについて明記します。
8.免責事項
天候不順、対象者の予測不能な行動など、探偵事務所の責任ではない事由により調査が中断または困難になった場合の取り扱いについて明記します。
9.契約の解除
契約を解除する場合の条件(依頼者からの解除、探偵事務所からの解除)を明記します。
キャンセル料が発生する場合の条件と金額を明記します。
クーリングオフ制度について明記します。
10.損害賠償
探偵事務所の過失により依頼者に損害が発生した場合の賠償責任について明記します。
11.紛争解決方法
契約に関してトラブルが発生した場合の紛争解決方法(協議、調停、訴訟など)について明記します。
管轄裁判所を明記します。
12.その他特記事項
上記以外に、当事者間で合意した特記事項があれば記載します。
・調査目的確認書(誓約書)の詳細
なぜ調査目的確認書(誓約書)が必要なのか?
違法行為の防止: 探偵業法は、違法な目的での調査を禁止しています。調査目的確認書は、依頼者が違法行為(ストーカー行為、差別調査、犯罪行為への利用など)を目的としていないことを確認することで、探偵事務所が法令遵守を徹底するために重要な役割を果たします。
探偵事務所のリスク回避: 探偵事務所が違法な調査に関与してしまうと、業務停止命令や罰則などの行政処分を受ける可能性があります。調査目的確認書は、探偵事務所自身を保護する意味合いも持ちます。
依頼者自身の保護: 違法な調査に関与してしまうと、依頼者自身も罪に問われる可能性があります。調査目的確認書を通して、依頼者は改めて違法行為のリスクを認識し、自身を守ることにも繋がります。
調査目的確認書(誓約書)に記載されているべき内容
・依頼者の情報: 氏名、住所、連絡先
・調査対象者の情報: 氏名(分かっている範囲で)、その他、対象者を特定できる情報(例:写真、勤務先、生年月日など)
・調査目的: 具体的な調査目的を記載します。(例:「配偶者の不貞行為の事実確認」「行方不明者の捜索」「取引先の信用調査」など)、「ストーカー行為、DV、差別、その他違法行為を目的としていない」旨の誓約文言が記載されていることが必須です。
・調査結果の利用目的: 調査結果をどのように利用するのかを記載します。(例:「離婚裁判の証拠として使用」「身元調査の結果を結婚の判断材料とする」「取引の判断材料とする」など)
・誓約事項:
・調査結果を違法な目的で使用しないこと
・調査によって知り得た情報を不当に利用しないこと
・調査が法令に違反する行為ではないことを認識していること
・虚偽の申告をしていないこと
・再調査を検討する状況
・十分な証拠が得られなかった: 調査の目的が証拠収集であったにもかかわらず、期待していたレベルの証拠(写真、動画、情報など)が得られなかった場合。
・報告書の内容に不備がある: 報告書の内容に事実誤認、情報の欠落、曖昧な記述など、不備がある場合。
・調査方法に疑問がある: 契約で定められた調査方法が適切に行われていなかった疑いがある場合。
・調査結果が目的と合致しない: 調査結果が、当初の目的を達成するために十分な情報を提供していない場合。
・再調査の可否と条件
再調査が認められるかどうかは、主に以下の要素によって判断されます
・契約内容: 契約書に再調査に関する条項があるかどうか、どのような条件で再調査が認められるのかが重要です。
・探偵事務所の過失: 証拠の撮り逃し、尾行の失敗など、探偵事務所の明らかな過失によって十分な調査が行われなかった場合は、無償で再調査が行われる可能性が高いです。
・依頼者の情報提供: 依頼者から提供された情報が不十分だったために十分な調査が行えなかった場合は、再調査に追加料金が発生する可能性があります。
・調査対象者の行動: 調査対象者の予測不可能な行動によって目的を達成できなかった場合は、再調査に追加料金が発生する可能性があります。
・成功報酬制の場合: 成功報酬制の場合、「成功」の定義が重要になります。「成功」とみなされない場合、再調査ではなく、追加調査という扱いになることもあります。
・追加調査の依頼:新規契約と契約変更のメリット・デメリット
契約変更(追加契約、変更契約とも呼ばれる)
メリット
・手続きの簡略化: 新規契約に比べて、契約書の作成や締結手続きが簡略化されることが多いです。印紙税などの費用も抑えられる場合があります。
・契約の一貫性: 既存の契約と関連付けて管理できるため、契約内容の把握が容易です。複数の契約書を管理する必要がありません
・担当者との連携がスムーズ: 既存の担当者と引き続きやり取りを行うため、状況説明の手間が省け、連携がスムーズに進みやすいです。
デメリット
:変更内容の範囲: 既存の契約内容に大きく影響するような変更は、契約変更では対応できない場合があります。例えば、調査対象者が全く異なる場合や、調査目的が大きく異なる場合などは、新規契約が必要となる可能性が高いです。
:責任範囲の曖昧さ: 変更内容が曖昧な場合、後で責任範囲についてトラブルになる可能性があります。変更内容は書面で明確にしておくことが非常に重要です。口頭での合意は避け、必ず書面に残しましょう。
:既存契約への影響: 変更内容によっては、既存契約の解釈に影響を与える可能性があります。変更契約書を作成する際は、既存契約との関係性を明確にしておくことが重要です。
新規契約
メリット
:明確な契約内容: 新たな契約書を作成するため、追加調査の内容、期間、料金、責任範囲などを明確に定めることができます。既存の契約と混同することなく、独立した契約として管理できます。
:既存契約への影響がない: 既存の契約とは独立した契約となるため、既存契約に影響を与えることなく追加調査を進めることができます。例えば、既存契約の期間が満了しても、新規契約は継続して有効です。
:より柔軟な対応: 調査内容や条件に合わせて、より柔軟な契約内容を設定することができます。例えば、料金体系を既存契約とは異なるものにしたり、免責事項を新たに設定したりすることができます。
デメリット
:手続きが煩雑: 契約書の作成、締結、印紙貼付など、新規契約の手続きが必要となるため、時間と手間がかかる場合があります。
:担当者との再度の説明: 担当者が同じ場合でも、改めて調査内容や状況を説明する必要がある場合があります。
・追加料金について
追加料金が発生するケースの詳細
1. 再調査の場合
探偵事務所の過失による再調査
これは、探偵事務所の明らかなミスや不注意によって、十分な調査が行われなかった場合に発生します。例えば、
尾行中に調査員が対象者を見失ってしまった。
重要な証拠となる写真や動画を撮り逃してしまった。
報告書に重大な事実誤認があった。
このような場合、探偵事務所の責任において再調査が行われるべきであり、原則として追加料金は発生しません。 ただし、契約書に特約がある場合は、その特約に従うことになりますので、契約書の内容をよく確認する必要があります。
依頼者の情報不足による再調査
依頼者から提供された情報が不十分であったために、調査が難航し、結果的に再調査が必要となった場合です。例えば、対象者の行動パターンに関する情報が不足していた。対象者の写真が古く、現在の容姿と異なっていた。対象者の勤務先情報が間違っていた。
このような場合、情報不足の責任は依頼者にあるため、追加料金が発生するのが一般的です。 ただし、情報不足が調査にどの程度影響したのか、追加調査の規模などを考慮し、探偵事務所と依頼者で協議の上、料金を決定することになります。
対象者の予測不能な行動による再調査
調査中に、対象者が当初想定していなかった行動を取ったために、調査の継続が困難になった場合です。例えば、
対象者が急に遠方へ出張してしまった。
対象者が予定を変更し、全く別の場所へ行ってしまった。
悪天候などにより、調査が一時的に中断せざるを得なくなった。
このような場合、予測不可能な事態への対応となるため、追加料金が発生するのが一般的です。 この場合も、追加調査の規模や期間などを考慮し、探偵事務所と依頼者で協議の上、料金を決定することになります。
2.追加調査の場合
依頼者の追加要望による追加調査
当初の契約では想定していなかった調査項目を追加する場合です。例えば、
当初は配偶者の行動調査のみを依頼していたが、後から不貞相手の身元調査も追加で依頼したい。
当初は特定の人物の尾行のみを依頼していたが、後からその人物の関係者の調査も追加で依頼したい。
このような場合、追加料金が発生するのが当然です。 新たな調査内容に応じて、探偵事務所から追加の見積書が提示されますので、内容をよく確認し、合意の上で追加調査を行うようにしましょう。
・複数業者への依頼:情報共有の可否、二重契約のリスク
情報共有の可否
複数の探偵事務所に同じ案件を依頼する場合、各事務所間で情報共有を行うことは、原則として依頼者の許可がない限り禁止されています。これは、探偵業法第10条に定められた守秘義務に基づくものです。
・守秘義務: 探偵業者は、業務上知り得た情報を正当な理由なく第三者に漏らしてはならないとされています。これは、他の探偵事務所も例外ではありません。
・依頼者の許可: 情報共有を行うためには、事前に依頼者から明確な許可を得る必要があります。許可を得た場合でも、共有する情報の範囲は必要最小限に留めるべきです。
情報共有を許可する場合でも、以下の点に注意が必要です。
・情報管理体制の確認: 情報共有先の探偵事務所が、適切な情報管理体制を整えているかを確認する必要があります。情報漏洩のリスクを最小限に抑えるためにも、信頼できる業者を選ぶことが重要です。
・情報共有の範囲の明確化: どの情報を、どの範囲で共有するのかを明確にしておく必要があります。口頭での合意だけでなく、書面で合意内容を記録しておくことが望ましいです。
二重契約のリスク
・二重契約とは: 同じ目的の調査を複数の業者と同時に契約することを指します。
・リスク: 二重契約は、契約違反となる可能性があります。契約書に「他社との重複契約の禁止」といった条項が含まれている場合、契約違反として損害賠償を請求される可能性があります。また、各事務所が別々に調査を行うことで、調査対象者に警戒されたり、情報が錯綜したりする可能性もあります。
二重契約を避けるためには、以下の点に注意が必要です。
・契約前に確認: 契約前に、他の探偵事務所にも同じ案件を依頼しているかどうかを正直に伝える必要があります。
・契約書の確認: 契約書に「他社との重複契約の禁止」といった条項が含まれていないかを確認する必要があります。